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【書評】これぞ村上龍。『オールド・テロリスト』を読み終えた感想

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 先月発売された村上龍の『オールド・テロリスト』を読み終えた。

 文藝春秋で連載されていたときから、『希望の国のエクソダス』に登場したセキグチがまた登場するらしい、という情報は知っていたため、単行本として発売されるのを心待ちにしていた。
 と言っても、『希望の国のエクソダス』の続編という扱いではなく、同作との関連性はない。ただ、セキグチの他にも何人か同じ登場人物が登場するので、『希望の〜』を読んだ上で本作を読むとまた違ったおもしろさがある。

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テロを題材にした過去の作品との比較

 タイトルからも分かるとおり、本作では「テロ」が重要なテーマとして描かれている。過去にも同じように「テロ」を題材とした作品はいくつかあり、「コインロッカー・ベイビーズ」や「半島を出よ」なんかがそうだ。「愛と幻想のファシズム」も、テロとは少し違うけれど系統は似ているかもしれない。

 ただ、先の2作品と本作との大きな違いは、テロの首謀者が若者や社会的弱者、精神破綻者などではなく、70代〜90代の老人たちであるという点だ。彼らは、「腑抜けた日本を、もう一度焼け野原に戻す」という信義の元、次々とテロを実行する。しかも、自分たちが直接手を下すのではなく、若者を洗脳し、彼らを実行犯として仕立て上げる。

村上作品の新たなヒロイン、カツラギ

 本作には、カツラギという女性が主要なキャラクターとして登場する。このカツラギが、テロの首謀者である老人たちとの重要な接点となっていくのだが、彼女のキャラクターがとても魅力的で、私が本作でいちばん好きな登場人物である。

 村上作品で、女性の登場人物といえば『コインロッカー・ベイビーズ』のアネモネ、『愛と幻想のファシズム』のフルーツもとても魅力的だ。女性の登場人物で言うと、私はアネモネがいちばん気に入っている。ワニを飼っているという時点でかなりファンキーだけど、ものすごく女の子らしい一面を見せたりもする。友人とよく「やっぱりアネモネがいちばんだよね」などと言い合ったりしていた。

 だが、このカツラギにはそのアネモネと同じくらい惹かれてしまった。
 整った顔立ちで、出会った男は例外なく彼女に好感を持つが、壮絶な過去とトラウマを持つ彼女には、いわゆる「普通の」コミュニケーションが通用しない。しかし、彼女はいつも正しく、冷静で、そして残酷なことを淡々と語る。

 そんな彼女のキャラクターを、特によく描写しているシーンがあるので引用したい。

「愛情というのは、具体的にどういうものか、わたしはあまり知らない。でも、愛情がない人が、何をするかはだいたいわかる。いなくなるから。たぶん愛情というのは、量で計れるもので、ゼロかマイナスになると、たいてい、その人は、いなくなる」 P475

 しかし、カツラギはどうしてこんなにシンプルで、正しくて、そして残酷なことを、これほどわかりやすく語れるのだろう。愛情は量、まさに言い得て妙で、否定なんかできるわけがなかったし、おれは、これまでいかに自分をごまかして生きてきたか、思い知らされた。 P476

 特に終盤で、セキグチが元女房と電話で話した後にカツラギが告げる一言がとても強烈で、私は自分に向かって言われているかのような感覚にとらわれ、心を揺さぶられた。ものすごくリアリティと切実さがあって、読んでいてとても辛くなってしまった。

 私がこのカツラギに惹かれたのは、彼女がセキグチに向かって投げかける言葉を、いちいち自分に向けられた言葉のように受け取ったからだと思う。そしてそのどれもが嫌になるくらい正しく、説得力があった。

本作の感想

 『オールド・テロリスト』は、「これぞ村上龍」と思わせてくれるような、素晴らしい作品だった。前作の『55歳からのハローライフ』がイマイチだったこともあり、本作にはいつも以上に期待を寄せていたが、期待以上のおもしろさだった。例えば、『心はあなたのもとに』のような恋愛小説もとても好きだけれど、村上龍にはやっぱり「テロ」とか「破壊」とか、そういった反社会的、反体制的なモチーフを書いてほしいなと思う。

 以下の記事では、村上龍と村上春樹の作品を比べ、こう評されている。

これは龍、春樹どちらが優位か、ということではなく、「あり得ないことを、目いっぱい面白く、深く、楽しく読ませてくれる作家」が村上春樹だとすれば、いま進行しつつある題材の龍的な組み合わせによって(テロは世界中の問題だし、老人問題も先進社会では共通のテーマになっている)、「これはあり得ることだ、むしろどこかで待ちのぞんでいたことだ」、という無意識の欲望をリアルに示してみせるのが、村上龍である。それが『オールド・テロリスト』の、圧倒的なリアリティをつくっている。

 『希望の国のエクソダス』は個人的にとても好きな作品なので、同作の登場人物が新たな形で登場することも、私が本作をおもしろく読めたひとつの要因ではある。カツラギという魅力的なヒロインの存在、テロと破壊というテーマがそれに加わり、村上龍にしか書けない唯一無二の作品に仕上がっている。テロが起こる場面の描写は生々しく、ページを繰る手が思わず止まってしまいそうになるくらいのリアリティがあった。

 素晴らしい小説には、自分の生き方を改めて問い直し、変えてしまうほどのパワーがある。この『オールド・テロリスト』も、そんな素晴らしい小説のひとつだった。

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