自分はどんな文章を書きたいのだろうと考えてみた。
どんな言葉を用いて、どんな表現で、どんな文体で書きたいのだろうと。
そんなことを考えていてふと、ある台詞が頭に浮かんだ。
私、あなたのしゃべり方すごく好きよ。きれいに壁土を塗ってるみたいで。
これは村上春樹の「ノルウェイの森」という作品に出てくる台詞だ。
緑という女の子が、主人公のワタナベに対してこう言う。
「私、あなたのしゃべり方すごく好きよ。きれいに壁土を塗ってるみたいで。」
そしてこの表現が、自分が目指す文章の形をとてもよく表しているのではないかと思った。
不足なく、よどみなく、律儀に隙間を埋めていくみたいに文章を書く。
読んだ人がていねいな気持ちになれるような、なんだか身の回りを整理したくなるような、そんな文章を。
そして何より、自分自身が、自分の文章を読み返してみてどう思うか。
こうして何かを書く以上はやっぱり、自分の文章を好きになりたい。
「最高」とまではいかなくても、「うん、悪くないな」くらいには思いたい。
ぱりっと糊のきいたシャツ、綺麗に折りたたまれたハンカチ、整然と並んだブーツにお気に入りの万年筆。
そういった、具体的な情景やモノを思い起こさせるような、ある種の強制力を持ったパワーのある文章を。
「自分が「ていねいになれる何か」に出会うこと」という記事も書いたけど、その「ていねいになれる何か」というものをきちんと文章で表現したい。
自分は何に対して、どういう時に「ていねいな気持ち」になれるんだろう、ということをちゃんと把握したい。
例えば、清潔なシーツに洗いたてのタオル、左右がきちんとペアになった靴下、お気に入りのキャンドル。
そういったものを文体という形で読む人に伝える。
読んだ人が、ちょっと姿勢を正したくなるような、そんな文章。
その人の隙間を、きれいに壁土で埋めるような、そんな文章が書きたい。